高齢になると体調の変化が起こりやすくなり、ちょっとした体調不良も見逃せない悩みになります。ご本人だけでなく、ご家族や介護に携わる方も「何に気をつけたらいいのか分からない」と不安を感じることが多くなります。
そんなとき、バイタルサインの正しい観察と理解は大きな安心につながります。この記事では、高齢者のバイタルサインの基本から、日々のチェック方法、もしもの時の対応までやさしく解説します。
高齢者のバイタルサインとは何か基本から理解しよう

高齢者のバイタルサインとは、体の大切な状態を知るための基本的な指標です。日々の健康を見守る目安として、介護の現場や家庭でも大切にされています。
バイタルサインの主な種類
バイタルサインとは、生命活動の基本的な状態を示す項目です。医療や介護の現場では、主に次の4つが大切にされています。
- 体温
- 脈拍(心拍数)
- 血圧
- 呼吸数
これら以外にも、意識のはっきりさや皮膚の色などが参考にされることもあります。バイタルサインの変化は、体調の変化や病気の初期サインを示すことがあります。そのため、日ごろからのチェックがとても重要です。
バイタルサインはどれか一つだけを見るのではなく、全体のバランスや普段との違いを意識することがポイントです。特に高齢者の場合、体の機能が若いころとは異なるため、普段から数値の傾向を知っておくと異変に気づきやすくなります。
バイタルサインが高齢者ケアで重要な理由
高齢者は体力や免疫力が低下しがちで、病気の進行も早い場合があります。そのため、バイタルサインの小さな異常に早く気づくことが大切です。
また、高齢者は「だるい」「おかしい」といった体調の変化を言葉にしづらいことも多いです。バイタルサインを日常的に観察することで、ご本人がうまく伝えられない体調の変化にも気づきやすくなります。早めの対応は重症化を防ぐ手助けとなり、ご本人の安心やご家族の負担軽減にも役立ちます。
高齢者と成人で異なるバイタルサインの特徴
高齢者のバイタルサインは、一般成人と比べて違いが出やすくなります。たとえば体温はやや低めになる傾向があり、血圧も変化しやすいです。
また、脈拍のリズムが不規則になったり、呼吸が浅くなったりする場合もあります。そのため、一般的な「正常値」だけでなく、個人の普段の値を知っておくことが大切になります。
高齢になると、ちょっとした環境の変化やストレス、体調不良でもバイタルサインが大きく変動することが増えます。こうした特徴を理解し、普段との違いに注意を払いましょう。
バイタルサインを日常的に観察する意義
日常的なバイタルサインの観察は、未然に体調不良や病気の重症化を防ぐうえで大切です。特に高齢者は、症状が急変することもあるため、毎日の観察と記録が役立ちます。
また、数値の変化を継続して追うことで、体調の傾向や生活習慣の改善ポイントも見えてきます。ご本人も変化に気づきやすくなり、ご家族や介護スタッフと情報を共有しやすくなります。
高齢者のバイタルサイン正常値と基準値の目安

高齢者のバイタルサインには目安となる数値がありますが、個人差や年齢による変化も大きいものです。ここでは各項目ごとに詳しく説明します。
体温の正常範囲と高齢者での注意点
体温の正常範囲は一般的に36.0~37.0度とされていますが、高齢者では35.5度前後から平熱となることもあります。加齢により体温調節が難しくなり、低体温になりやすい特徴があります。
また、感染症や炎症があっても高熱が出にくい場合も多いです。逆に、微熱でも普段より高めなら注意が必要です。普段の平熱を知っておき、1度以上の差があれば医療機関に相談しましょう。
表:高齢者の体温目安
区分 | 一般的な正常値(目安) | 注意が必要な変化 |
---|---|---|
成人 | 36.0~37.0度 | 38.0度以上 |
高齢者 | 35.5~36.5度 | 普段より1度以上高い・低い |
血圧の基準値と年齢による変化
高齢者の血圧は、年齢とともに高くなる傾向があります。一般成人の基準値は上が140mmHg未満、下が90mmHg未満ですが、高齢者では140~150mmHg程度まで許容されることもあります。
ただし、急激な上昇や下降には注意が必要です。朝晩で血圧が大きく変動する場合や、めまい・ふらつきを伴うときは、無理をせず早めに相談しましょう。
年齢層 | 上(収縮期) | 下(拡張期) |
---|---|---|
成人 | 120以下 | 80以下 |
高齢者目安 | 130~150 | 70~90 |
脈拍数の目安と変動しやすいケース
脈拍(心拍数)は、成人で1分間に60~80回が目安とされていますが、高齢者では60~90回程度も一般的です。加齢により脈のリズムが不規則になったり、少しの動きで変動しやすくなります。
また、熱や脱水、ストレス、薬の影響などでも脈拍が早くなることがあります。逆に、脈が極端に遅い、または不規則に飛ぶ場合は注意が必要です。普段の脈を把握し、いつもと異なる様子があれば観察を続けましょう。
呼吸数の正常値と睡眠時の違い
呼吸数は1分間に12~20回が一般的な大人の目安です。高齢者では体力の低下や病気により、呼吸が浅く回数が増えることもあります。
特に睡眠中は、呼吸がゆっくりになり回数が減る傾向がありますが、呼吸が止まる、あるいは苦しそうな場合は注意が必要です。日中と夜間の違いを観察し、異常がないかを確認しましょう。
正しいバイタルサインの測定方法とポイント

バイタルサインは正しい方法で測定することで、より確かな健康状態の把握につながります。ここでは測定時のコツやポイントをお伝えします。
体温測定の手順と測定時のコツ
体温は、安静時に同じ場所(わき・口・耳など)で毎回測ることが大切です。特に食事や入浴の後は体温が一時的に上がるので、30分ほど時間をあけてから測るようにしましょう。
また、わきで測る場合はしっかりと密着させ、測定中は動かないようにします。毎日決まった時間に測定し、普段の平熱を把握しておくと変化に気づきやすくなります。
血圧測定で気をつけたいポイント
血圧は、座った状態でリラックスして測定します。測定前は5分ほど安静にし、カフ(腕帯)は心臓と同じ高さにすると正確な値が得られます。
また、食後や運動直後、トイレを我慢した状態では血圧が変動しやすいため、避けてください。左右の腕で大きく差がある場合や、数値が急に変わる場合は医師に相談しましょう。
脈拍や心拍数の正確な測り方
脈拍は、手首や首に指を軽く当てて測ります。1分間しっかりとカウントするのが正確ですが、15秒測って4倍する方法もあります。リズムの乱れや飛びがないかにも注意しましょう。
運動や緊張、食後は脈拍が早くなりやすいので、安静時に測ることが大切です。測定結果は毎回記録し、普段との違いもメモしておくと便利です。
呼吸数や意識レベルの観察方法
呼吸数は、ご本人が意識しない自然な状態で、胸やお腹の動きを見て数えます。1分間観察し、12~20回が目安です。会話中に苦しそう、呼吸が浅い・早いと感じたら注意しましょう。
また、呼吸以外にも、会話がスムーズか、意識はしっかりしているかも観察ポイントです。普段と違う反応や、ぼんやりしている様子があれば記録し、必要に応じて医療機関に相談してください。
バイタルサイン異常時の対応と緊急性の判断

バイタルサインに異常が見られた場合、どのように対応すれば良いか迷うことが多いです。ここでは、受診の目安や緊急時の対応方法について説明します。
異常値の見分け方と受診の目安
体温、血圧、脈拍、呼吸数が普段の範囲から外れたり、急に変化した場合は注意が必要です。特に次のようなケースは、早めに医療機関に連絡しましょう。
- 体温:普段より1度以上高い、または低い
- 血圧:収縮期が180mmHg以上または90mmHg以下
- 脈拍:1分間に40回以下、または120回以上
- 呼吸数:30回以上や10回未満
普段と違う倦怠感、ぼんやりしている、息苦しいなどの症状があれば、すぐに専門家へ相談してください。
緊急性を判断する際のポイント
次のような状態があれば、すぐに救急車を呼ぶことが必要です。
- 意識がはっきりしない、反応が遅い
- 呼吸が苦しそう、または止まっている
- 激しい胸の痛み、顔色が青白い
また、体温の急激な上昇や、脈が乱れて倒れたりした場合も緊急対応が求められます。不安があるときは、ためらわずに医療機関や救急へ相談してください。
バイタル異常を家族や医療機関に伝える方法
バイタルサインの異常を伝える際は、次のポイントを押さえておくとスムーズです。
- 測定した日時と数値
- 普段の値との違い
- 変化に気づいたきっかけや症状
メモや記録表を活用し、「いつ・どのくらい・どんな様子か」を整理しましょう。これにより、医療機関での対応も的確になります。
介護現場で求められる初期対応の流れ
介護現場や家庭でバイタルサイン異常に気づいたときの初期対応は、次の手順を参考にしてください。
- 異常値や症状を落ち着いて確認・記録する
- 安静な状態を保ち、必要あれば横になる
- 家族や上司へ連絡し、医療機関に相談する
- 指示を受けたら速やかに行動する
この流れを日ごろから家族やスタッフで共有しておくことで、万が一のときも慌てず対応することができます。
継続的な健康管理のためにできること
日々の健康観察は、バイタルサインの測定だけでなく、情報の共有や生活習慣の見直しも大切です。ここでは長く続けられる工夫を紹介します。
日常的なバイタルサイン記録の活用法
毎日のバイタルサインを記録することで、体調の変化や傾向が分かりやすくなります。記録表やアプリを使うと、数値の推移をグラフで確認でき、異常時の早期発見につながります。
また、介護スタッフや医師との面談時にも、記録があると説明しやすくなります。無理なく続けられる方法を見つけ、ご本人も一緒に記入できるよう工夫しましょう。
家族で共有する健康情報のポイント
高齢者の健康情報を家族で共有する際は、次の3点を意識すると分かりやすくなります。
- バイタルサインの最近の傾向
- 気になる症状や体調の変化
- 受診や相談の履歴
共有ノートやグループアプリなどを使い、情報をすぐ確認できる仕組みを作ると安心です。
介護施設や医療機関との連携のコツ
介護施設や医療機関と連携する際は、普段のバイタルサインや体調変化を明確に伝えることが大切です。記録表やメモを準備し、受診時には持参しましょう。
また、気になることは小さなことでも事前に質問しておくと、より適切な支援を受けられます。信頼関係を築き、気軽に相談できる関係を目指してください。
バイタルサイン以外で気をつける健康チェック項目
バイタルサイン以外にも、次のような日常の変化に注意しましょう。
- 食欲や食事量の変化
- 睡眠の質や寝つきの変化
- 排泄(トイレ)の回数や様子
- 皮膚の状態(乾燥やかゆみ)
これらも体調の変化を知る大切なサインです。日々の観察や声かけを通じて、変化を見逃さないようにしましょう。
まとめ:高齢者のバイタルサイン管理が安心と健康を支える
高齢者のバイタルサイン管理は、ご本人の安全や安心な暮らしを支える大切な取り組みです。日々の観察や記録、家族や専門職との連携により、小さな変化にも気づきやすくなります。
普段からバイタルサインや健康情報を共有し、いざというときの対応を確認しておくことで、ご本人もご家族も安心して過ごすことができます。これからも無理なく続けられる健康管理を心がけていきましょう。