認知症の人がトイレばかり行く理由と家庭でできる対策とは

高齢化社会が進む今、ご家族の介護や老後の生活について不安を感じている方も多いのではないでしょうか。特に認知症の方のトイレ行動が頻繁になると、ご本人も介護者も戸惑いや疲労を覚えることがあります。

この悩みに寄り添いながら、認知症の方がトイレに何度も行く理由や、家庭でできる工夫、介護者の負担をどう軽減するかについて、わかりやすく解説していきます。

認知症の人がトイレばかり行く理由とその背景

認知症の方がトイレに何度も行きたがるのには、いくつかの理由や背景があります。まずはその主な要因と、日常生活にどう影響するのかを知っておきましょう。

加齢による身体の変化が影響する

高齢になると体の機能が自然と衰え、膀胱の容量が減ったり、尿を長くためておけなくなったりします。そのため「トイレが近くなる」という変化が現れやすくなります。また、筋力の低下や運動不足によって、トイレまでの移動に時間がかかりがちです。

さらに、年齢を重ねるにつれ、夜間に何度もトイレに行きたくなることも増える傾向にあります。これは加齢にともなうホルモンバランスの変化や、腎臓の働きの変化が影響している場合も少なくありません。こうした身体的な理由が、認知症の方の頻繁なトイレ行動の土台となっているケースはよく見られます。

記憶障害や見当識障害が関係する

認知症では「記憶障害」や「見当識障害」（時間や場所の感覚がわからなくなる症状）がよく見られます。これらの症状があると、「さっきトイレに行った」という記憶が残りにくいため、つい何度もトイレに行こうとします。

また、トイレの場所がわからなくなりやすいことや、「今どこにいるのか」「今が昼なのか夜なのか」といった感覚があいまいになることもあります。その結果、不安からトイレへ行きたがる行動が繰り返される場合があります。こうした状況は、ご本人にとってもストレスとなりやすく、介護者にも対応の難しさが生じます。

認知症治療薬が排尿に及ぼす影響

認知症の進行を遅らせるために使われる薬には、人によっては排尿に影響を与えるものがあります。たとえば、膀胱の収縮を促進する副作用が出ることがあり、これがトイレの回数増加につながる場合があります。

薬の影響を見極めることは難しいですが、「薬を飲み始めてから急にトイレの回数が増えた」と感じた場合は、主治医や薬剤師に相談することが大切です。必要があれば薬の種類や量の調整も検討できますので、無理に我慢を強いず、こまめに専門家とコミュニケーションを取るよう心がけましょう。

不安や環境変化がトイレ行動に与える影響

認知症の方は、環境の変化や不安を感じやすく、その不安が「トイレに行きたい」という行動として現れることがあります。たとえば、知らない場所や新しい介護スタッフ、家庭内の模様替えなど、ちょっとした変化も大きなストレスになりやすいです。

また、家族が忙しい時や会話が減ったとき、本人が孤立感や不安を強く感じる場合にも、頻繁なトイレ行動が見られることがあります。こうした心理的な背景も、日常の観察から気づくことができるので、環境を整えたり、安心できる声かけを心がけることが大切です。

認知症による頻繁なトイレ行動がもたらすリスク

認知症の方がトイレに頻繁に行くことで、さまざまなリスクや困りごとが生じます。ご本人の健康面だけでなく、介護をするご家族にとっても注意が必要な点がいくつかあります。

睡眠不足や生活リズムの乱れ

夜間に何度もトイレに起きるようになると、睡眠が途切れやすくなります。ご本人も眠りが浅くなったり、日中に眠気を感じて過ごしづらくなったりしがちです。生活リズムが崩れることで、さらに認知症の症状が進みやすくなるとも言われています。

一方で、介護者も夜中に何度も付き添わなければならなくなり、十分な睡眠が取れない日が続くこともあります。こうした悪循環を放置すると、ご本人もご家族も体調を崩しやすくなるため、早めの対策が必要です。

転倒やケガのリスクが高まる

夜間や急いでトイレに向かう際には、転倒やケガの危険性が高まります。特に暗い場所や段差がある廊下は注意が必要です。高齢になると骨折もしやすく、入院や寝たきりになるきっかけにもなりかねません。

以下のような状況では危険が増しますので、環境整備が重要です。

• 夜間のトイレ移動
• 足元が滑りやすい場所
• トイレ入口の段差

家庭内でできる安全対策についても、後ほど詳しくご紹介します。

本人の精神的なストレス

トイレに行きたい気持ちが繰り返し起きるのは、ご本人にとっても落ち着かないものです。自分の行動をコントロールできないことに、苛立ちや不安を感じる場合があります。また、トイレでの失敗が増えると自信を失い、意欲が下がってしまうこともあります。

ご本人の気持ちに寄り添い、失敗を責めずに優しく対応することが、精神的なストレスの軽減につながります。安心できる声かけや、成功体験を増やす工夫を心がけましょう。

介護者の負担増加と疲労

頻繁なトイレ介助は、介護者の心身にも負担がかかります。夜間の付き添いや着替えの手伝い、失禁後の清掃など、睡眠不足や疲労がたまりやすくなります。

介護者の負担が限界を超えると、共倒れや介護うつのリスクも。適度に家族や外部サービスの手を借りることが大切です。無理をせず、相談できる場所を確保しておきましょう。

頻繁なトイレへの対応で知っておきたいポイント

認知症の方の頻繁なトイレ行動には、事前の備えや便利な道具の利用が効果的です。取り入れやすい工夫を知ることで、ご本人も介護者もより安心して過ごせるようになります。

排尿日誌を活用した状況把握

まずは排尿日誌をつけて、1日を通した排尿回数やタイミング、量などを記録しましょう。これにより、頻回なトイレ行動のパターンや背景が見えやすくなります。記録例としては次のようにシンプルで十分です。

時間帯	トイレ回数	その他メモ
午前	3回	朝食後に多い
午後	2回	外出前後に集中
夜間	4回	眠りが浅い時が多い

排尿日誌の内容は、かかりつけ医や専門家に相談する際にも役立ちます。どの時間帯に多いのか、飲み物や薬の影響があるのかなどを客観的に把握しやすくなります。

ポータブルトイレや福祉用具の利用

夜間やトイレが遠い場合は、ベッドのそばに置けるポータブルトイレの活用がおすすめです。移動距離が短くなり、転倒リスクを減らすことができます。

また、手すりや滑り止めマットなどの福祉用具を使うことで、トイレまでの移動や立ち座りが安全に行いやすくなります。地域の福祉用具貸与サービスを利用できる場合もあるので、ケアマネジャーなどに相談してみましょう。

紙おむつや防水シーツの上手な使い方

頻繁なトイレ行動が続く場合、紙おむつや防水シーツの利用を検討するのも有効です。失敗があっても布団や衣服が汚れにくくなり、清掃や着替えの負担も軽減されます。

ただし、ご本人の自尊心を大切にし、無理のない範囲で取り入れることがポイントです。紙おむつの種類やサイズ、防水シーツの位置などは、日中と夜間で使い分けると、より快適に過ごしやすくなります。

利尿作用のある飲み物を控える工夫

カフェインを多く含むコーヒーや緑茶、アルコール飲料は利尿作用が強く、トイレの回数が増える原因になることがあります。日常生活でできる工夫として、夕方以降はこれらの飲み物をできるだけ控えるよう心がけましょう。

かわりに、白湯やノンカフェインのお茶などを選ぶと、過剰な排尿を防ぐのに役立ちます。水分摂取のバランスも大切なので、極端に制限するのではなく、適量を意識して調整しましょう。

家庭でできる認知症のトイレ対策と生活の工夫

日々の生活の中でできる認知症の方のトイレ対策には、手間をかけずに取り入れやすい工夫がたくさんあります。ご本人の安心感や自立を大切にしながら、快適な生活を目指しましょう。

就寝前の水分摂取を調整する方法

夜間のトイレ回数を減らすためには、就寝前2時間ほどは水分摂取を控える方法が効果的です。ただし、脱水にならないよう、日中に必要な水分をしっかり摂ることが大切です。

具体的には、夕食後から寝る前までの時間帯を意識して水分摂取を調整します。また、本人が水分を欲しがる場合は、1回の量を少なめに分けて与えるのもポイントです。医師と相談しながら、無理のない範囲で調整しましょう。

生活リズムを整えて夜間の排尿を減らす

日中に適度な運動や日光浴を取り入れることで、自然な眠りを促し、夜間のトイレ回数を減らす効果が期待できます。昼間にしっかり活動することで、夜間の睡眠の質も上がりやすくなります。

また、毎日同じ時間に食事や入浴を行う習慣をつけると、身体のリズムが整いトイレのタイミングも一定になりやすいです。生活全体のリズムを意識することが、トイレ対策にもつながります。

トイレの位置や環境を分かりやすく工夫する

トイレの位置がすぐにわかるように、廊下やトイレのドアに大きな表示をつけたり、わかりやすい色のマットを敷いたりするのがおすすめです。照明を明るく保つことで、夜間も安心して移動できます。

また、トイレ内の手すりや便座の高さなども、本人の使いやすさに合わせて調整しましょう。トイレの場所が一目でわかるような環境づくりが、ご本人のストレス軽減にも役立ちます。

本人に寄り添った優しい声かけと接し方

トイレへの不安や失敗を責めず、やさしく声をかけて寄り添う姿勢が大切です。「大丈夫ですよ」「一緒に行きましょう」といった安心感のある言葉を選びましょう。

また、トイレに行ったことを忘れてしまう場合もあるため、「さっき行きましたよ」と否定するより、「今は大丈夫ですね」と穏やかに伝えましょう。ご本人の気持ちに寄り添い、安心して過ごせる雰囲気を心がけましょう。

専門家や介護サービスの活用で負担を軽減するには

介護は一人で抱え込まず、専門家や介護サービスの力を借りることが大切です。適切に活用することで、ご本人もご家族もより安心して暮らすことができます。

夜間対応の訪問介護や定期巡回サービス

夜間にトイレ介助が必要な場合、訪問介護や定期巡回サービスの利用がおすすめです。夜間専用の介護スタッフが自宅に来て、トイレ誘導や見守りを行ってくれるため、介護者の負担が和らぎます。

利用できるサービスや時間帯、費用などは、地域によって異なるため、担当のケアマネジャーや介護相談窓口で確認しましょう。必要に応じて複数のサービスを組み合わせることも可能です。

介護相談窓口やケアマネジャーへの相談

困ったことや悩みがある場合は、地域包括支援センターなどの介護相談窓口に相談することが有効です。ケアマネジャーは、本人や家族の状況に合わせて最適なサービスを提案してくれます。

また、介護保険の申請やサービス利用の手続きもサポートしてもらえます。自分たちだけで抱え込まず、早めに専門家に相談することが、介護を続けていくうえでとても大切です。

在宅介護が難しい場合の施設利用の選択肢

在宅での介護が難しい場合には、ショートステイや特別養護老人ホーム、グループホームなど施設を利用する選択肢もあります。これにより、家族の負担が大きく軽減され、ご本人も安全で安心できる環境で過ごせます。

施設ごとにサービス内容や費用、利用できる期間が異なるため、見学や相談を重ねて納得のいく選択をしましょう。無理をせず、必要な時には施設利用も前向きに検討してみてください。

専門医による診断と治療のポイント

トイレに頻繁に行く原因が認知症以外の病気による場合もあります。泌尿器科やかかりつけ医など、専門医の診断を受けておくと安心です。必要があれば治療や薬の調整も行えます。

また、定期的に受診して症状の変化を確認してもらうことで、本人に合ったケアや対策がしやすくなります。自己判断せずに、医師のアドバイスを取り入れることをおすすめします。

まとめ：認知症の人がトイレばかり行く時の対策と家族の安心のために

認知症の方がトイレに何度も行く背景には、身体的な変化や記憶障害、環境による不安など、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。ご本人もご家族も無理をせず、日常の小さな工夫や専門家の知恵を取り入れながら、安心して過ごせる環境づくりを心がけましょう。

早めの相談や適切なサービス利用が、ご家族の負担軽減やご本人の安全・安心につながります。周囲の協力を得ながら、前向きな気持ちで介護や老後の暮らしに取り組んでいきましょう。