相続に遺言書がある場合はどう進めるべきか？手続きや注意点をわかりやすく解説

老後の暮らしを考える際、多くの方が「相続」や「遺言書」について不安や疑問を抱えています。特に親族間でのトラブルや手続きの複雑さを心配する声は少なくありません。

どのような準備をしておけば良いか、何に注意すれば円満に相続が進められるのか、悩みを抱える方も多いでしょう。

本記事では、遺言書がある場合に知っておきたい基礎知識から、実際の手続き、トラブルへの対応策、専門家への相談方法まで丁寧に解説します。

相続遺言書がある場合に知っておきたい基礎知識

親や自分の老後を考えるとき、「遺言書」があると安心できると耳にします。ここでは、遺言書にまつわる基礎的な知識を整理していきます。

相続遺言書の種類と特徴

遺言書には主に3つの種類があります。まず一般的なのが「自筆証書遺言」です。これは、本人が紙に自分で書いて作成する方法で、手軽に始めやすい反面、形式に不備があると無効になることもあります。

次に「公正証書遺言」は、公証役場で公証人が関わって作成する遺言書です。専門家のチェックが入るため、形式ミスが少なく、紛失や改ざんのリスクも抑えられます。最後に「秘密証書遺言」という方法もあります。内容を秘密にしつつ、存在だけを公証役場で証明してもらうものですが、利用は多くありません。

それぞれの特徴をまとめると、次のようになります。

種類	作成方法	主な特徴
自筆証書遺言	自分で全て記入	手軽だが形式に注意
公正証書遺言	公証役場で作成	安全性が高い
秘密証書遺言	内容は秘密	利用は少ない

自分や家族の状況に合わせて、どの遺言書が適しているか検討することが大切です。

遺言書の有無が相続手続きに与える影響

遺言書がある場合とない場合では、相続手続きの進め方や必要な手続きが大きく異なります。遺言書が存在すると、原則として書かれた内容に沿って遺産が分配されるため、相続人同士で話し合う機会が減り、トラブルを防ぎやすくなります。

一方、遺言書がない場合や内容が不明確な場合は、法律で定められた「法定相続分」に従って遺産分割協議を行う必要があります。この協議は、相続人全員の合意が必要なため、意見がまとまらず長期化するリスクもあります。

遺言書の有無は、相続手続きの円滑さや相続人の負担に大きく関わります。そのため、事前に家族で内容を確認しておくことが安心につながります。

遺言書の効力と無効になるケース

遺言書は一定の効力を持っていますが、条件を満たさないと無効と判断されることがあります。たとえば、自筆証書遺言の場合は全文が自筆で書かれている必要があり、日付や署名、押印がなければ効力が認められません。

また、遺言書の内容が法に反していたり、本人の判断能力が不十分な状態で作成された場合にも無効になることがあります。公正証書遺言であっても、明らかに意思表示ができない状態で作成された場合や、後から新しい遺言書が出てきた場合は古い内容が無効となることも考えられます。

無効となる主なケースを箇条書きで整理します。

• 日付や署名がない
• 全文が自筆で書かれていない（自筆証書の場合）
• 本人の判断能力が不十分
• 法律に反する内容
• 新しい遺言書が作成されていた

遺言書を作成する際や内容を確認する際は、これらのポイントに注意しましょう。

相続遺言書の見つけ方と確認方法

いざ相続が始まったとき、遺言書がどこに保管されているのか分からず困ることも少なくありません。まず、自宅の金庫や机の中、銀行の貸金庫などを確認するのが一般的です。

公正証書遺言の場合は「公証役場」で検索が可能です。遺言者が亡くなったあと、戸籍謄本など必要書類を持って公証役場に問い合わせると、遺言書の有無や内容が確認できます。また、最近では法務局の遺言書保管制度も利用されています。この場合も、法務局に必要書類を持参し申し込むと閲覧が可能です。

秘密証書遺言や自筆証書遺言の場合は、保管場所の手がかりとなるメモや家族・知人の証言が役立つことも多いです。早めに探し始め、見つかった場合はすぐに内容を確認して手続きを進めることが大切です。

遺言書がある場合の相続手続きの流れ

遺言書が見つかった場合、相続の手続きはどのように進めるべきか迷う方も多いです。ここでは主な手順と注意点を整理します。

遺言書の検認が必要な場合の手順

自筆証書遺言が見つかった場合、「検認」と呼ばれる手続きが必要です。検認とは、家庭裁判所が遺言書の内容や形式を確認し、改ざんや紛失を防ぐためのものです。検認手続きは、必ず相続開始後に行い、勝手に開封してはいけません。

具体的には、まず遺言書を封があればそのまま家庭裁判所へ持参し、検認申立書や戸籍謄本、相続人全員の住所など必要書類を添えて申請します。裁判所での検認後、遺言書が正式に開封・記録され、その写しを受け取ることができます。

検認は遺言の内容を保証するものではなく、あくまで形式面の確認です。公正証書遺言や法務局保管の自筆証書遺言の場合、検認は原則不要となっています。

相続人と財産の調査と確定方法

遺言書に書かれていない相続人や財産がないか確認することは、相続手続きの中でとても重要です。まずは遺言書の内容をもとに、戸籍謄本を集めて相続人を確定します。生前に養子縁組や離婚歴がある場合は漏れがないよう広く調査しましょう。

次に、遺産の内容も調べます。主な相続財産には、預貯金、不動産、株式、現金、車、保険金などがあります。銀行等の金融機関や法務局で残高証明や登記簿の取得が必要になることもあります。

漏れや間違いがないよう、一覧表にして整理すると手続きがスムーズです。

調査項目	主な確認方法	備考
相続人	戸籍謄本、住民票	生前の戸籍も確認
預貯金	金融機関への照会	残高証明取得
不動産	登記簿・固定資産税	名義確認

正確な調査がトラブル防止にもつながります。

遺言執行者がいる場合の役割と流れ

遺言書に「遺言執行者」が指定されている場合、執行者が中心となって手続きを進めます。執行者の役割は、遺言内容のとおりに財産を分配したり、必要な手続きを代行したりすることです。

たとえば、不動産の名義変更や銀行口座の解約、各種届け出などを遺言執行者がまとめて行います。相続人同士で意見の対立があっても、中立的に動ける点がメリットです。また、執行者には弁護士や信頼できる第三者を選ぶこともでき、専門性の高い案件にも対応しやすくなります。

遺言執行者が選ばれていない場合は、相続人全員で話し合いながら手続きを進める必要があります。執行者がいるかどうか、遺言書で必ず確認しましょう。

相続税申告や登記など必要な実務手続き

遺言書に基づく相続であっても、税金や登記などの実務的な手続きは必須です。財産の額が一定以上（基礎控除額超）ある場合は、相続税の申告・納付が必要となります。申告期限は相続開始を知った日から10か月以内のため、早めの準備が求められます。

また、不動産の相続があれば、名義変更の登記手続きが欠かせません。これを忘れると売却などができなくなります。預金口座の解約や株式の名義変更も、金融機関ごとの必要書類をそろえて進めましょう。

複数の金融機関や不動産がある場合は、相続財産一覧表を作って整理すると効率的です。申告・登記に不安があるときは、税理士や司法書士に相談するのも良い方法です。

不公平な遺言や納得できない内容への対処法

遺言書が見つかっても、その内容に納得できなかったり、不公平と感じる方もいます。ここでは、そうした場合の対応策を説明します。

遺留分侵害額請求の基礎知識

遺言書があっても、全ての相続人が納得できるとは限りません。特に、特定の相続人に遺産の大部分が偏っていると、不公平感が強くなります。こうした場合、法律で守られている「遺留分」という権利があります。

遺留分とは、相続人のうち配偶者や子、直系尊属（親など）に認められた最低限の取り分のことです。これを侵害する遺言書があった場合、一定期間内に「遺留分侵害額請求」を行うことで、本来もらえるはずの取り分を請求できます。

遺留分の割合や請求できる相続人の範囲は、法定で決まっています。たとえば兄弟姉妹には遺留分がありませんので注意が必要です。

遺留分侵害額請求の進め方と注意点

遺留分侵害額請求を進めるには、まず自分の遺留分がどれくらいかを計算します。次に、遺留分を侵害している相手（受遺者や他の相続人）に対し、内容証明郵便などで正式に請求の意思表示をします。

請求は相続開始を知った日から1年以内、または相続開始から10年以内に行う必要があります。請求後は話し合い（協議）を経て、合意が得られれば支払いを受けますが、折り合わない場合は家庭裁判所の調停や訴訟に進むことになります。

注意点として、期限を過ぎると権利が消滅するため、早めの判断が重要です。また、書類の準備や法律の解釈に不安がある場合は、弁護士への相談も検討しましょう。

遺言書に従わない相続の可否と条件

原則として、遺言書の内容は法的に尊重されますが、相続人全員の合意があれば「遺言書と異なる分け方」も可能です。たとえば、遺言書には長男に全財産と記されていても、ほかの相続人全員が同意すれば協議による分割ができます。

ただし、相続人の中に意思表示できない方や未成年者がいる場合は代理人や特別代理人が必要となり、手続きが複雑になる場合があります。また、一部の財産については遺言内容をそのまま実行し、残りのみ協議で分割することも可能です。

このような対応ができるのは、相続人同士の関係が良好で、全員の意見が一致している場合に限られます。合意が得られない場合は、原則として遺言内容が優先されます。

遺産分割協議や調停による解決方法

遺言書の内容をめぐって相続人同士の意見が対立した場合や、一部の相続人が納得できない場合は、「遺産分割協議」や「調停」といった話し合いの場が設けられます。

遺産分割協議は、相続人全員が集まって財産の分け方を話し合い、合意に至れば協議書を作成して手続きを進めます。しかし、どうしても意見が一致しない場合や話し合いが難航する場合は、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。

調停では、中立の立場である調停委員が間に入り、双方の主張を整理しながら解決策を探ります。多くの場合、時間はかかりますが、合意に至れば調停調書が作成され法的効力を持ちます。

遺言書と異なる相続を希望する場合の留意点

遺言書と異なる相続を希望する場合、どのような点に注意すればよいか悩む方も多いでしょう。ここでは主な留意点をまとめます。

相続人全員の合意がある場合の対応

遺言書の内容と違う分け方を希望する場合も、相続人全員が合意していればそれが優先されます。こうした場合は、「遺産分割協議書」を作成し、全員が署名・押印することで合意内容を記録します。

この協議書があれば金融機関や法務局での手続きもスムーズに進みます。ただし、合意が得られない相続人が一人でもいる場合は、遺言書の内容通りに手続きを進める必要があります。未成年者や判断能力が不十分な相続人がいる場合は、家庭裁判所の手続きを要する場合もあります。

遺言書が無効となる場合の具体例

遺言書が無効となることもあり得ます。たとえば、自筆証書遺言で日付や署名がなかったり、全文が自筆でなかった場合、また本人が認知症などで判断能力がない状態で作成された場合などです。

さらに、内容が法律に違反していたり、公序良俗に反するような記載がある場合も無効とされます。新しい遺言書が見つかったときは、日付が新しいものが有効となり、古い遺言書の効力は基本的に失われます。

無効の具体例をまとめると次の通りです。

• 日付や署名・押印の欠落
• 本人の判断能力がない状態で作成
• 法律違反や不明瞭な内容
• 新しい遺言書が発見された場合

こうした場合は、専門家に確認して適切な対応をとることが肝心です。

複数の遺言書が見つかったときの優先順位

たまに複数の遺言書が見つかり、どれが有効かわからなくなることがあります。原則として、日付が最も新しい遺言書が有効です。ただし、内容が一部だけ異なる場合や、複数の遺言書が矛盾している場合は、矛盾部分のみ新しい内容が優先されます。

また、形式に不備がある遺言書は無効となるため、必ずしも新しいものが有効とは限りません。複数発見した場合は、すべての遺言書を内容・日付・署名など形式面で確認し、必要に応じて専門家に相談しましょう。

遺言書に記載のない財産の扱い方

遺言書に一部の財産しか記載されていない場合、未記載の財産については相続人全員による協議（遺産分割協議）が必要です。協議がまとまれば、協議書を作成して手続きを進めます。

万が一、協議がまとまらない場合は、家庭裁判所の調停で解決を目指します。なお、遺言書に「その他すべての財産は○○に相続させる」といった包括的な記載があれば、その内容が有効となりますが、明確に書かれていない場合は協議が必要です。

専門家への相談が必要なケースとメリット

相続や遺言書対応は、思いがけず複雑になることもあります。どのような時に専門家に相談した方がいいのか、そのメリットを解説します。

弁護士や税理士への相談が役立つ場面

相続トラブルが発生していたり、遺産分割協議がまとまらない場合は弁護士への相談が有効です。法律の観点から適切なアドバイスや代理交渉、調停・訴訟の対応が可能です。

また、不動産や預貯金が多く相続税がかかりそうな場合や、申告が必要か不安な場合は税理士に相談すると安心できます。財産評価や節税対策、申告手続きまでしっかりサポートを受けられます。

複数の相続人が遠方に住んでいたり、意見が対立している場合も、専門家が間に入ることで円滑な対応が期待できます。

相続トラブルを未然に防ぐためのポイント

相続トラブルを避けるためには、事前にしっかりとした準備と情報共有が欠かせません。具体的には、遺言書の内容を家族と話し合い、財産の内容や分け方をできるだけ明確にしておくことが重要です。

また、相続人全員が遺言書の存在や内容を知っていると、突然のトラブルが起きにくくなります。疑問点や不安がある場合は、早めに専門家に相談しておくと安心です。遺言書作成時に専門家のサポートを受けることも、形式ミスや無効のリスクを減らします。

専門家を選ぶときのチェックポイント

専門家に依頼する際は、次のような点をチェックしましょう。

• 相続や遺言に関する実績や経験が豊富か
• 相談しやすい雰囲気か
• 費用体系が明確か
• サポートが細やかか

できれば複数の事務所を比較し、自分たちに合った専門家を選ぶことが大切です。初回相談が無料のところも増えているので、気軽に相談してみましょう。

無料相談やサポートサービスの活用方法

最近は市区町村や公的機関、弁護士会、司法書士会などで無料相談窓口を設けていることも多いです。初回の相談で手続きの流れや必要書類、費用相場などを確認し、自分たちに合ったサポートを探しましょう。

また、銀行や信託会社でも遺言・相続に特化した有料サポートサービスがあります。公的な無料相談と、実務まで依頼できる有料サービスを使い分けるのも良い方法です。

まとめ：遺言書がある場合の相続で後悔しないための重要ポイント

遺言書があると相続手続きはスムーズに進みやすいですが、その内容や形式に不備があるとトラブルの原因となることもあります。遺言書の種類や効力、手続きの流れを知り、相続人全員の合意を大切にすることが、円満な相続への第一歩です。

不公平な内容や納得できない場合は、遺留分の請求や調停制度を活用し、冷静に対処することが大切です。専門家の力を借りることで、複雑な手続きやトラブルにも柔軟に対応できます。事前の準備と正しい情報収集が、後悔のない相続につながります。